第8回三笠宮オリエント学術賞授賞について
会長 小林 春夫
日本オリエント学会では、本学会の創立者のおひとりで、日本におけるオリエント研究の推進者であられる三笠宮崇仁殿下の名を冠した「三笠宮オリエント学術賞」を設け、日本におけるオリエント研究の発展に大きな学術的貢献をなすと判断される業績を顕彰し、もって斯界の振興に資することとしています。
厳正なる審査の結果、下記の方に第8回三笠宮オリエント学術賞を授賞することを決定いたしましたので、ご報告申し上げます。
受賞者 | 永田 雄三 (公益財団法人 東洋文庫研究員) |
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受賞業績 | (1)Yuzo NAGATA, Tarihte Âyânlar, Karaosmanoğulları üzerinde bir İnceleme(『歴史のなかのアーヤーン―カラオスマンオウル家の研究』), Ankara, Türk Tarih Kurumu Basımevi, 1997. (2)永田雄三著『前近代トルコの地方名士: カラオスマンオウル家の研究』 (明治大学人文科学研究所叢書), 刀水書房、2009年 (3)永田雄三著『トルコの歴史』(上)(下)、刀水書房、2023年 その他、多数。 |
選考経過 | 当学会では、会員や関連学会に対し学会ウェブサイト、学会メーリングリストその他を通じて2024年10月30日より被推薦者の募集を行った。その結果、募集締切りの2025年1月20日までに1件の業績が推薦された。 理事会が選任した選考委員会は、各業績の内容とその推薦理由を子細に検討したうえで、全委員で意見交換を行い、永田雄三氏を第8回三笠宮オリエント学術賞の受賞候補者として理事会に推薦することとした。 理事会は、2025年4月1日に開催された第591回の会合において、選考委員会からの推挙を全会一致で承認し、永田雄三氏に第8回三笠宮オリエント学術賞を授与することを決定した。 |
授賞理由 | 第一に、永田雄三氏が、日本からトルコ政府奨学金留学生として 1965 年に国立イスタンブル大学大学院文学研究科博士課程に入学し、1969 年に Ph.D.を取得した、日本におけるオスマン帝国史研究の開拓者であり、第一人者であられることである。氏は、イスタンブルの首相府オスマン古文書館所蔵公文書を用いた研究を日本人として初めておこなった人物でもあり、日本におけるオスマン史研究の基礎を築いた功績は多大といえる。氏が執筆したオスマン史概説および専門書は、オスマン史研究者であれば誰であれ、現在も熟読すべき必読書といえる。 第二に、永田氏の専門は前近代オスマン帝国社会経済史で、アーヤーン研究の世界的権威であられることである。氏の主要研究は、近世オスマン帝国の地方社会において政治的経済的権力基盤を築いたアーヤーンと呼ばれる地方名望家家系のひとつ、カラオスマンオウル家に関する研究である。氏は、同家系の政治権力、経済基盤、さらにはワクフ制度を利用した地域社会への富の還元の実態を、租税台帳、法廷台帳、財務関連文書、ワクフ文書など様々なオスマン語公文書等を解読し、実証的手法と複合的視点とから考察し、トルコ語、英語および日本語で研究書・研究論文を出版してきた。その結果、氏の研究方法は以後、諸アーヤーン研究のひな型になったといえる。 第三に、永田氏の築いたトルコ人研究者との学術上の信頼関係が、トルコにおける日本人若手研究者の留学受け入れ、あるいは共同研究のパートナー等、今日に至るまで両国の学生、院生、研究者間の学術研究・交流の発展に大きく寄与していることである。 |
授賞式 | 日時: 2025年6月21日(土) 午後1時より 会場: 東京都文京区本郷7丁目3番1号 東京大学本郷キャンパス東洋文化研究所3階 大会議室 |